大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(ワ)7364号 判決

原告

武本宣雄

被告

尾方光士

主文

一  被告は、原告に対し、金三一七万三二〇六円及び内金二八七万三二〇六円に対する平成八年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金二三二五万八三二七円及び内金二一二五万八三二七円に対する平成八年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告運転の自動二輪車(東大阪市三W一九七〇。以下「被害車両」という。)が平成八年五月一四日午後一時四〇分ころ、大阪府東大阪市若江西新町一丁目二番一号先大阪中央環状線北行道路上の瓜生堂西交差点において、青信号により西から東に向かって進入したところ、被告運転の普通乗用自動車(和泉五四た七二三。以下「加害車両」という。)が赤信号を無視して南から北に向かって進入し、被害車両に衝突したことにより、原告が転倒し負傷した事故(以下「本件事故」という。)につき、原告(昭和一五年九月二日生まれ。当時五五歳)が自賠法三条に基づき、被告に対し、損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実

(一)  本件事故が発生した。

(二)  被告には、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

(三)  原告は、平成八年五月一四日から平成九年五月一六日(実治療日数一五五日)まで、新井病院に通院した。

二  争点

原告の受傷内容の程度、素因の競合の有無、損害額

(原告主張)

別紙原告主張損害額記載のとおりである。

(被告の主張)

原告は、平成八年五月一四日から平成九年三月三一日までの三二二日間、休業を余儀なくされたと主張するが、上記期間の相当部分は、自己の私病である糖尿病、高血圧症、肝臓病による治療に関わっていたものであって、本件事故による負傷による治療は、その一部に限定されるべきである。原告は、営業に伴い当然に経費を要するので、原告の逸失利益を算定するに当たっては、所得(九一三万七〇八〇円)から経費を控除すべきである。原告の平成七年度の所得額は、五二六万六一〇八円である。したがって、原告の休業損害を算出するに当たっては、実質的な所得の減収分から私病に関わった治療の割合分を控除したものを基礎とすべきである。

また、後遺障害逸失利益を算出するに当たっても、その基礎収入額は、前記の実質所得額を基準とすべきであり、さらに、その存続期間は、原告の神経症状の程度から、三年間程度とするのが相当である。

第三  争点に対する判断

一  証拠(甲三、一八、一九ないし二一、乙一ないし五、原被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  被告運転の加害車両が南から北に向けて進行し、本件交差点の手前までは時速六〇キロメートルで、その後、本件交差点に進入直前にやや減速して時速約五〇キロメートルで進入したところ、西から東に向けて同交差点に進入した原告運転の被害車両を発見したので、急ブレーキをかけたが間に合わず、被害車両に衝突したため、原告は約七メートル跳ね飛ばされて、肩、頭を打つなどした(なお、被害車両は一六・七メートル跳ね飛ばされた。)。

(二)  原告は、本件事故により、左肩部、両膝部打撲挫傷、左足背部、外踝部・左第三趾挫傷、左大腿部打撲挫傷、頸部捻挫、腰部捻挫の傷害を受けた。

原告は、本件事故後、直ちに新井病院に受診し、左足(膝、足背部)痛、左腰部痛、両手第二指痛、頸部痛を訴え、治療を受けた。また、原告は、左肩、左下肢を負傷し、手当を受けた。

原告は、平成八年五月三〇日高血圧症のため動悸が出現し、薬を服用したことから、低血糖のため意識を消失して、緊急に新井病院に入院し、同年八月三一日まで内科的治療を受けた。この間、原告は、頭のふらつきや、不眠、動悸、頭重感、倦怠感等の症状が出現した。また、原告は、この間も、頸部痛、腰背部痛等を訴え、リハビリのため、同年六月には一七日間、同年七月には二一日間、同年八月には二四日間、理学療法を受けた。なお、原告は、平成五年頃から、平成八年の前記入院までの間、高血圧症、気管支炎、肝機能障害、腎炎、糖尿病性昏睡などの症状により頻繁に新井病院に入通院してきた。なお、原告は、本件事故の直前の平成八年二月九日から同月二二日までの間にも、糖尿病性昏睡のため入院した。

原告は、平成八年八月三一日に新井病院を退院した後、平成九年二月までは毎月二〇日前後、平成九年四月ないし同年六月までは毎月一日ないし二日、新井病院に通院し、頸部痛、腰背部痛に対し、理学療法を受けた。他方、原告は、上記退院後、血圧が高く、高血圧症状を呈して、仕事は短時間しかできない状態がしばし見られた。

新井病院では、原告につき、平成九年五月一六日、頸椎の運動制限、頸椎スパーリングテスト陽性、両側腕神経叢圧痛、右肩甲上神経圧痛、両側肩甲挙筋、僧帽筋の圧痛、両側大後頭部神経圧痛等の症状を残して、症状が固定したと診断した。自賠責保険会社(自算会に未加入)は、原告の後遺障害を一二級一二号に該当するものと認定した。

原告は、現在、針灸師として稼働するについて、特に針灸などの集中力を要する分野において、支障を感じている。

以上認定の事実によれば、原告は、本件事故により転倒し、肩、頭等にかなり強い衝撃を受け、その結果、頸部捻挫、腰背部捻挫等の傷害を負い、それに伴う神経症状を呈しているということができる。そして、原告の前記認定の症状、自賠責保険会社(自算会に未加入)による一二級一二号認定の事実を考慮するとき、原告の上記症状は、後遺障害等級一二級一二号に該当し、平成九年五月一六日、症状固定したものと一応認めるべきである。しかしながら、原告の前記症状は、その長期化の要因として、原告の私病である高血圧症、糖尿病等が大きく影響を及ぼしているといわざるを得ないので、この面での寄与度を考慮して、その分を損害額から減額するのが相当である。そして、前記認定の事情を考慮すれば、その割合は五割であると認めるべきである。

二(一)  休業損害 二七七万〇〇〇五円

証拠(甲一六)によれば、原告と妻の玉絵が営む武本整骨院の平成七年度の営業収入は一八二七万四一六一円(なお、証拠(甲一六、一七、原告本人)によれば、平成八年度、同九年度の武本整骨院の営業収入は、それぞれ一六〇九万五三二九円、一五一〇万六四一二円であって、平成七年度のそれとさして遜色がないが、これは、原告の長男武本亨章の寄与(もっとも、同人は、平成七年から柔道整復の専門学校に通学を始めたに過ぎず、その寄与を過大視することは相当ではない。なお、同人は、平成一〇年三月、同専門学校を卒業した。)が一部貢献していることが認められる。したがって、武本整骨院の平成七年度の収入の大半が原告の妻の玉絵の働きに係っていたということはできない。)であり、少なくともその二分の一である九一三万七〇八〇円は原告の寄与に係るものと一応認められるので、そうすると、平成七年度の原告の売上収入は九一三万七〇八〇円であり、これから売り上げ原価(甲一五の三枚目参照)を控除すると、その額は八九八万一四八八円となることが認められる。しかしながら、原告には、前記の既往症が存したので、その病状の内容・程度に鑑み、そのすべてを原告の寄与に係るものと断定するのは相当でないので、このうちの約七割の六二八万〇〇〇〇円(一日当たり一万七二〇五円)をもって原告の寄与に係る収入と認め、これを基礎として、原告の休業損害を算定することとする。そして、原告の前記認定の病状、通院状況等に鑑み、原告が休業を余儀なくされた期間としては、本件事故時(平成八年五月一四日)から平成九年三月三一日までの三二二日の内五割の一六一日と認めるのが相当である。そうすると、原告の休業損害は、次の計算式のとおり二七七万〇〇〇五円となる。

一万七二〇五円×一六一日=二七七万〇〇〇五円

(二)  後遺障害逸失利益 三八〇万六四〇八円

原告の後遺障害は、自賠責等級表一二級一二号(労働能力喪失率一四%)に該当するというべきであって、その内容・程度に鑑み、その存続期間は、五年間であるというべきである。原告の前記収入六二八万〇〇〇〇円(一日当たり一万七二〇五円)を基礎として、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息(ライプニッツ係数四・三二九四)を控除して、原告の後遺障害逸失利益の現在価格を算出すると、その額は、次の計算式のとおり三八〇万六四〇八円となる。

六二八万〇〇〇〇円×〇・一四×四・三二九四=三八〇万六四〇八円

(三)  通院慰謝料 一二五万〇〇〇〇円

通院慰謝料としては、本件事故の態様、前記認定の原告の被った傷害の程度、通院期間、その他の事情を考慮するとき、原告の通院慰謝料としては、一二五万〇〇〇〇円が相当である。

(四)  後遺障害慰謝料 二四〇万〇〇〇〇円

原告の後遺障害の内容・程度、その他の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料は、二四〇万〇〇〇〇円が相当である。

(五)  以上合計 一〇二二万六四一三円

(六)  既往症の寄与度減額

以上の損害額合計一〇二二万六四一三円から既往症の寄与度分の五割を控除すると、その金額は、五一一万三二〇六円となる。

(七)  損益相殺

以上のとおり原告の損害合計は、五一一万三二〇六円であるところ、原告は、自賠責保険から二二四万〇〇〇〇円の支払を受けている(争いがない。)ので、これを控除すると、差引損害額は、二八七万三二〇六円となる。

(八)  弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円

本件事案の内容、審理期間、認容額、その他の事情を考慮するとき、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、三〇万〇〇〇〇円をもって相当と認める。

(九)  原告の損害額

以上によれば、原告の本件事故による損害額は、三一七万三二〇六円となる。

第四  よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由がある。

(裁判官 中路義彦)

原告主張損害額

1 休業損害 806万0626円

針灸師の資格を有する原告は、柔道整復師の資格を有する妻玉絵と共に、住所地において、武本整骨院を営み、平成7年には、その営業収入として、合わせて1827万4161円を得ていたが、少なくともその2分の1である913万7080円(1日当たり2万5033円)は、原告の寄与によるものである。

原告は、本件事故による負傷により、平成8年5月14日から平成9年3月31日までの322日間休業を余儀なくされた。

以上によれば、原告の休業損害は、次の計算式のとおり806万0626円となる。

2万5033円×322日=806万0626円

2 後遺症逸失利益 1178万7701円

原告は、本件事故による後遺障害により、自賠責保険等級表12級12号の認定(労働能力喪失率14%)を受けた。原告は、症状固定時(平成9年5月16日)、当時56歳で、就労可能年数は12年であるから、新ホフマン係数は9.215である。以上によれば、逸失利益の現在価格は、次の計算式のとおり1178万7701円となる。

2万5033円×365×0.14×9.215=1178万7701円

3 通院慰謝料 125万0000円

4 後遺症慰謝料 240万0000円

5 以上合計 2349万8327円

6 損益相殺 224万0000円

7 差引 2125万8327円

8 弁護士費用 200万0000円

9 合計 2325万8327円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例